Research · Technology · AI エージェント運用

AI エージェントの動かし方
2 通りを実測で比べる

作成
2026-09-16
実測
同一課題 × 条件別
ログ
134 セッション
単価
公表単価で換算

AI にまとまった調べものを任せるとき、1 体で全部やらせるより、担当を分けたほうが速くて正確になることがあります。その「分け方」には性格の違う 2 通りがあり、費用も事故の起き方も変わります。この資料は、前提知識のない人向けに仕組みを説明したうえで、同じ課題を走らせて測った結果をまとめたものです。

1. 前提 — そもそも何の話か

エージェントとは

ここでいう AI エージェントは、指示を受けて、自分でツールを使いながら、目的を達成するまで手を動かし続ける AI のことです。ふつうのチャットとの違いは、ファイルを読む・Web を検索する・コマンドを実行する、といった行動を自分の判断で繰り返す点にあります。今回の対象は Claude Code というコマンドラインのエージェントです。

サブエージェントとは

エージェントは、自分の代わりに働く別のエージェント(サブエージェント)を起動できます。人間でいえば外注や部下にあたります。使う理由は 2 つあります。

なぜ「トークン」と「文脈」が費用に直結するのか

AI の料金は、読ませた文字量(入力トークン)と書かせた文字量(出力トークン)で決まります。ここで効いてくるのが、会話が進むたびに、それまでの履歴を毎回もう一度読ませているという仕組みです。履歴が 20 万トークンまで伸びたセッションでは、1 回の応答ごとに 20 万トークン分の読み込みが発生します。

これを軽くするのが「プロンプトキャッシュ」です。同じ前半部分は覚えておいて、安く読み直せる仕組みで、書き込むときは割高・読み直すときは格安になります。ただしキャッシュには有効期限があり、放っておくと消えて、また書き直しになります。エージェントが互いを待ち合わせて手が止まると、この書き直しが起きます。

この資料の料金について: すべて公表単価(入力 $5・出力 $25・キャッシュ読み $0.50・1 時間キャッシュ書き $10・5 分キャッシュ書き $6.25、いずれも 100 万トークンあたり)で換算した目安で、実際の請求額ではありません。単価が正しいことは、実行時に返る料金と突き合わせて確認しています。

2. 2 つのやり方

A. 取りまとめ役が制御する(秘書方式)

運用ルールとして自分で組んだ形。ランタイムの特別な機能は使わない。

  1. 受付: 取りまとめ役(秘書役の AI)が依頼を受け、どの領域にまたがるかを判断する
  2. 板を用意: 共有の作業記録(ダッシュボード)をファイルとして作る
  3. 起動: 領域ごとに担当エージェントを起動する。「成果物はファイルに書き、報告はパスと要点だけ」と指示する
  4. 待機: 取りまとめ役は、報告が返るまで何も書かない(推測で埋めない、という明文のルール)
  5. 検証: 返ってきた成果物をファイルで直接確認する(出典が付いているか、他と矛盾しないか)
  6. 取りまとめ: 全員分が揃ってから統合し、人に報告する

B. エージェントチーム(ランタイムの機能)

Claude Code が持っている実験的機能。名前を付けて起動すると常駐の仲間になる。

  1. 有効化: 環境変数(CLAUDE_CODE_EXPERIMENTAL_AGENT_TEAMS)で機能を入れる
  2. 起動: エージェント起動時に 名前を付けると、通常のサブエージェントではなくチームメイトとして常駐する
  3. 直接会話: チームメイト同士がメッセージを送り合う。親を経由しない
  4. 通知: 担当が手を止めるたび、親に通知が届く。本文もそこに乗る
  5. 点呼: 親は誰が動いているかを一覧で確認できる(ListAgents)
  6. 取りまとめ: 親が通知を読みながら統合する

設計としての違い

観点A. 秘書方式B. エージェントチーム
制御の所在取りまとめ役 1 点に集中。起動・順番・検証を握る分散。担当同士が直接やり取りし、親は通知を受ける側
連絡手段共有ファイル(ダッシュボード)。親の会話履歴には載らないメッセージと通知。本文が親の履歴に積もる
状態の残り方ファイルに残る。中断しても読み直して再開できるセッション内に存在。落ちると失われる
成果物の受け渡しファイルにパスで渡す(長さの制限なし)報告本文に載せると 16,000 文字で切れる
典型的な失敗同じファイルへの同時編集による上書き(だから順番に通す規約がある)名前の衝突・通知ループ・報告の切断
向いている場面分担して調べ、突き合わせて、1 本にまとめる担当同士が互いの主張に反論し合う

実測で見た「分担の形」

同じ課題を走らせたときの、親(依頼を受けた側)と担当の働き方の違いです。ここは採点とは関係なく、ログからそのまま数えられます。

やり方親の呼び出し回数親の文脈の最大担当の数担当 1 体の呼び出し回数担当の文脈の最大
直接依頼(親が自分で全部調べる)18〜2332.9〜34.4 万0〜11710.5 万
秘書方式(取りまとめ役が分担させる)11〜159.4〜15.6 万2〜319〜4717.8〜34.8 万

取りまとめ役の文脈は薄いまま、担当のほうが深く掘っています。直接依頼では親自身の履歴が 34 万トークンまで膨らみ、以後の応答ごとにその全部を読み直すことになります。秘書方式では、重い調査の履歴は担当の中に閉じ、親は報告と成果物のパスだけを受け取ります。これが「文脈の分離」の実際の効き方です。

いっぽうで、担当を使うと総量は増えます。同じ課題で入力トークンの合計は、直接依頼が 382 万〜652 万、秘書方式が 794 万〜1,809 万でした。親の履歴は軽くなるが、全体では担当のぶんだけ読み込みが増える、という取引になっています。

3. 実測 1 — 同じ課題を走らせた比較

「2026-10-01 に法人を設立する想定で、設立準備から設立後 3 か月までの行政手続・税務・社会保険と、個人事業をたたむ側の手続を、期限・提出先・オンライン可否つきのスケジュールにする。会社形態の比較と、税・社会保険の判断材料も添える」という課題を使いました。答えを見る前に一次情報(国税庁・日本年金機構・法務局・自治体・会社法・行政手続のデータベース)から正解キーを作り、どの条件で作られたレポートかを伏せたまま、1 本につき 1 体の採点者が採点しています。

正解キー
事実 45 項目(うち「必須」27 項目)、よくある誤り 23 組、判定不能として採点から外した 13 点
条件
① 取りまとめ役を通さない直接依頼 ② 秘書方式 ③ エージェントチーム
採点
各項目を「正しい/一部欠け/誤り/記述なし」で判定。よくある誤りを踏んだ数も数える
やり方必須 27 項目の正解一部欠けキーと矛盾踏んだ「よくある誤り」料金所要入力トークン担当の数
直接依頼 1 回目1881廃業届の期限を古い「1 か月以内」と記載/国保の資格喪失を「オンライン不可」と断定$10.1515.7 分6,519,9191
直接依頼 2 回目1881廃業届の期限を古い「1 か月以内」と記載$7.5318.3 分3,818,2050
秘書方式 1 回目2250なし$18.1730.6 分7,942,4492
秘書方式 2 回目2150なし$16.0832.1 分8,840,2812
秘書方式 3 回目2520なし$18.4817.6 分14,754,7473
秘書方式 4 回目2430管轄税務署を実在しない署名で記載$20.7015.1 分18,090,9343
平均直接 18.0 / 秘書 23.0直接 1.0 / 秘書 0直接 1.5 件 / 秘書 0.25 件$8.84 / $18.3617.0 分 / 23.9 分517 万 / 1,241 万0.5 / 2.5

読み取れること

この比較の限界: 各条件 2 回ずつなので、小さな差は偶然と区別できない。とくに秘書方式の 3・4 回目は、常設ルールを整理した後(会話開始時点の読み込みが 48,348 → 45,390 トークン)に走らせており、1・2 回目と設定が完全には同一でない。ただし「キーと矛盾する記述の有無」は 6 本すべてで条件どおりに分かれた。

4. 実測 2 — エージェントチームは実際どう動いていたか

統制実験とは別に、3 週間分の実運用ログ(2026-09-15 までに開始した 134 セッション、サブエージェントのログ 231 本)を、起動方式で分けて集計しました。

起動方式体数換算額1 体あたり中央値呼び出し回数の中央値
チームメイト(エージェントチーム)151$1,483(87.4%)$4.739
通常のサブエージェント80$214(12.6%)$2.313
合計231$1,697

セッション単位で見ると、チームメイトを使ったセッションは 42 本で合計 $2,218(1 本の中央値 $41.6)、使っていないセッションは 92 本で $842(中央値 $3.1)でした。ただし重い依頼ほどチームを組む傾向があるので、この差をそのまま方式の効果と読むことはできません。方式そのものの効果は、同じ課題で測った実測 1 のほうを見てください。

チーム特有の費用がどこで発生するか

発生源観測
通知の本文が親に積もるチームメイトから親への通知 435 通、合計 138 万文字。親はこれを以後の応答ごとに読み直す
待ち合わせでキャッシュが切れるサブエージェントのキャッシュ書き 1.11 億トークンのうち、5 分以上あいた直後の書き直しが 23.4%(約 $163)
点呼のループある 1 セッションで ListAgents を 430 回呼び、そのセッションだけで $111
報告の切断報告本文の 16,000 文字上限。5 体並列で全員が超え、成果物がひとつも届かなかった事故が 1 件

5. 実測 3 — 無人実行ではチームが起動しなかった

今回いちばん意外だった観測です。対話画面ではなく、コマンドから無人で走らせる形(claude -p)では、エージェントチームが有効になりませんでした。

有効化のしかた結果(名前を付けてエージェントを起動)
起動オプションで環境変数を渡す通常のサブエージェントとして起動(チーム名なし)
プロセスの環境変数として渡す同上
さらに「同一プロセスで動かす」設定を明示同上

3 通りとも同じ結果でした(観測 2026-09-16、Claude Code 2.1.272)。一方、対話セッションのログにはチームメイトの実績が 151 体分残っています。つまりこの機能は対話で使う前提で、定期実行や無人のパイプラインには乗らないと考えるのが安全です。

同じ「無人だと事情が変わる」問題は、秘書方式にもありました。秘書役は「担当に振ったら、報告が来るまで待つ」という作法で動きますが、無人実行では待つためにターンを終えた瞬間に処理ごと終了し、担当も巻き添えで止まります。実際、最初の試行では 2 回とも成果物ゼロで終わりました(入力を開いたままにする方式で走らせ直して解決)。

LT で使える教訓: 「人が見ている前では動くが、無人にすると動かない」挙動は、エージェント運用でいちばん踏みやすい落とし穴です。定期実行に載せる前に、必ず無人で 1 回通してください。

6. 向く仕事・向かない仕事

秘書方式(取りまとめ役が制御)エージェントチーム(ランタイム機能)
向く ・領域を分けて調べ、1 本のレポートに統合する
・出典の検証や体裁の統一など、ゲートを通したい仕事
・中断・再開が起きる長時間の作業(状態がファイルに残る)
・無人実行・定期実行に載せたい仕事
・担当同士に議論させたい仕事(草稿への反論、設計案の潰し合い)
・1 つの文書を複数の担当が順番に編集する工程
・人が画面を見ていて、途中で口を出しながら進める仕事
向かない ・エージェント同士の対話そのものが価値になる仕事(取りまとめ役が介在するぶん往復が鈍る)
・依頼が 1 領域で完結する軽い仕事(取りまとめ役の分だけ重くなる)
・無人実行(そもそも起動しない)
・長い成果物の受け渡し(報告が切れる)
・費用を抑えたい定型調査
・同じ名前のエージェントが残っている可能性のある環境
共通で効く作法成果物はファイルに書かせてパスだけ返させる/完了通知を「終わった証拠」と見なさない/状態は必ず外部のファイルに置く

持ち帰り

7. 数字の出どころと限界